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第4章 KYOJIN no HOSHI は誰の星?


さて、この KYOJIN no HOSHI である。この星はいったい誰の星なのだろうか。

素直に考えれば、一徹のものであろう。それまで誰も「あの星が KYOJIN no HOSHI だ」と言わなかった時、一番最初に言い出し、かつ漫画・アニメというメディアを通じて全国に公言したのは彼なのだから。
しかし、一徹は結局その KYOJIN no HOSHI を、その手につかむことはなかったのではないか? 道半ばにして挫折し、その夢を息子・飛雄馬に託したのではないか? そして、作品の最後でその KYOJIN no HOSHI となったのは飛雄馬ではないか。己の左腕とひきかえに完全試合という偉業を成し遂げ(23)、「巨人軍」という星座の中でもひときわでっかく輝く明星となったのは、星飛雄馬その人ではないか。であるならその星は飛雄馬のものだ。

あるいは、原作者・梶原一騎氏のものか。一徹も飛雄馬もしょせんは原作者の創造物。 KYOJIN no HOSHI もまた同様。であるなら、この星の所有者は、その創造主たる原作者その人ということになる。

または、作画者・川崎のぼる氏のものか。 KYOJIN no HOSHI が Procyon であるとの推定は氏の作画がもとになっている。であるなら、Procyon = KYOJIN no HOSHI と決定づけたのは作画者以外の何者でもない。所有者はやっぱり川崎のぼる氏か。

我々は迷った。大いに迷った。

しかし、何度も言うようだが、我々は「巨人の星」世代である。作中の飛雄馬の活躍・苦悩をともに喜び、苦しんだ人間である。そんな我々にとって、作中人物はすでに架空の存在ではなくなっている。同様に、世代を超えた何十万人の野球少年たちにとっても、飛雄馬たちは現実のプロ野球選手以上の存在なのだ。ここでなにも実存哲学を論じるつもりはないが、何十万人という「かつての」野球少年たちにとって、飛雄馬たちの存在はまぎれもなく「実存」なのだ。多分は、長島・王以上の「実存」するヒーローなのである。

当時の野球少年の練習といえば、きまって「1000本ノック」が入っていた(誰一人1000本受けきった奴はいなかったが)。また、我々は花形満のかっこよさに憧れてノックアウト打法をひそかに練習していた男を知っている。彼はまた、”花形式大リーグボール2号対策”の3種類(24)をマスターしていたと言ってはばからない(もっとも大リーグボール2号を投げるライバルがいなかったので、実戦で試したことはないらしいが)。----我々はこの男のことを、花形満の阪神入団を機に発売された「ミツル=ハナガタ2000」(発売元・花形モータース)をいまだ探し求めているのでは、と疑っている。
彼のように左門豊作フリークだってこの広い日本のどこかにいるはずだ。伴宙太ファンだって・・・。ひょっとしたら、オーロラ娘ファンですら・・・。

いずれにしても、我々「巨人の星」世代にとって作中の登場人物は、実在する野球選手以上に存在感のある、「実存」するヒーローなのである。そんな我々にとって、架空の人物だという理由だけで一徹や飛雄馬を所有者候補からはずすのは、納得のいかないことである。やはり、彼らは有力な候補の一人なのである。

我々は議論した。おおいに議論した。

そして、結論。

KYOJIN no HOSHI の所有者は、星飛雄馬とする。

理由。
1) 架空の人物であることを理由に所有権を認めないのは不当であるとの判断を、当委員会は採用する。
2) よって、原作者・梶原一騎氏及び作画者・川崎のぼる氏と、各登場人物は同一のレベルで論じられるべきである。
3) 原作者・梶原一騎氏及び作画者・川崎のぼる氏は、自らの主張として「あの星が KYOJIN no HOSHI だ」との旨言明した事実は一切認められない。
4) 他のすべての人に先駆け、「あの星が KYOJIN no HOSHI だ」と明言したのは星一徹であり、当委員会は彼に第一所有権を認める。
5) その星一徹は作品の最後に「いま、おまえはパーフェクトにわしに勝ち、この父をのりこえた」と言明している。つまり、 KYOJIN no HOSHI なりえなかった父を超え、飛雄馬がKYOJIN no HOSHI となったことを万人の前で断言したのである。
6) このことをもって、星一徹にあった第一所有権は飛雄馬に譲られたと解釈するのがもっとも妥当である。
7) 彼ら以外に所有権を有すると推量するに足る者は存在しない。

以上から、KYOJIN no HOSHI 特定小委員会は、「 KYOJIN no HOSHI は飛雄馬の所有するところの星」と決定する。

23) 作品「巨人の星」では完全試合が成立したかどうかはあやふやになっている。ふらふらで一塁ベースにたどり着いた伴宙太のベースタッチと外野からの返球のどちらが早かったのか・・・。クレームで簡単に判定を覆す日本のプロ野球審判の威厳のなさがここにも描かれているのだ。だが、当リポートでは一徹が飛雄馬を認めたというその一点から、完全試合は成し遂げられたという表現で統一する(ちなみに、アニメでは完全試合は成立している)。
24) 大リーグボール2号とは、かの有名な「消える魔球」のことである(あのエポック社のゲーム野球盤にも変化球の1種として導入されたとても有名な、しかし誰も投げられない変化球のことである)。また、”花形式大リーグボール2号対策”の3種類とは、
1) 3塁走者にホームスチール(ヘッドスライディング)をしてもらい、ホームベース前の土ぼこりをおさえてもらう
2) ヘルメットをホームベース前に落とし、土ぼこりをおさえる
3) 一本足打法により、飛雄馬の驚きを誘い、右足を高くあげさせない
以上の3種類のことである。


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