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第1章 KYOJIN no HOSHI の求め方


KYOJIN no HOSHI を特定するために我々が選択したのは「巨人の星」(講談社KCスペシャル、全11集)である。「巨人の星」関連作品はあまたあるが、あえて漫画「巨人の星」のみを考証対象とした。

「巨人の星」関連作品のもう一方の雄といえば、いうまでもなくテレビアニメ版「巨人の星」であろう。
テレビアニメ版「巨人の星」は、昭和43年3月30日〜46年9月18日に放映され、その後もいくどとなく再放映されている。今や「ウルトラマン」や「アルプスの少女ハイジ」と並んで、いや、ことによったら「ももたろう」や「一寸法師」などと同等の、世代を超えた名作とさえいえるかもしれない。
しかし、我々はテレビアニメ版を、漫画「巨人の星」とは全く別の作品ととらえている。というのも、テレビアニメ版のストーリーは、原作とは違った独自の展開をなしているから。一例をあげると、飛雄馬のライバル、オズマ。テレビアニメ版では、彼は大リーグ復帰後ベトナム戦争に徴兵され、その戦傷がもとで死を迎えているが、原作にはこのようなエピソードは存在しない。
テレビアニメ版「巨人の星」は、漫画「巨人の星」のリメイク版ではなく、独立した、一個のすてきな作品なのである(一球を投げるのに30分かかったり、瞳の中で炎が燃えさかったりという誇張表現が際立っていたとしても)。

また、「巨人の星」の続編として「新巨人の星」(4)などの作品群があるが、これらも今回考証の対象外とした。

ここで白状しておくが我々は「巨人の星」世代である。それも、昭和43年3月30日〜46年9月18日の放映を1回たりともかかすことなく見ていた世代である。さらにいうなら、昭和41年〜46年まで少年マガジンに掲載された「巨人の星」の連載をリアルタイムで読んでいた世代である。もっといわせていただくなら、少年野球の試合で「大、リーグボール、3ごぉ〜! 」と叫んで、へろへろボールを投げ、めったうちをくらった世代である。んでもって、監督にめちゃくちゃ怒られた世代である。

そんな我々にとって、「新巨人の星」以降の作品は、「巨人の星」であって「巨人の星」じゃあないのだ。我々にとっての「巨人の星」は、飛雄馬が己の左腕とひきかえに完全試合を成し遂げ、父と子の戦いに終止符がうたれたあの時点で完結しているのだ(少年マガジンの紙面を涙でベトベトにし、そしてテレビ画面のなかの父に背負われ退場する飛雄馬の姿が涙にかすんでよく見えなかった記憶とともに)。

以上の理由から、当リポートにおけるテキストは、「巨人の星」(講談社KCスペシャル、全11集)のみとした。了承願いたい。

さて、本題である。
KYOJIN no HOSHI は本当に特定できるのだろうか? 原作者・梶原一騎氏は、KYOJIN no HOSHI を指定することなく、編集者に原稿を渡していたのではないか? 作画者・川崎のぼる氏は、ディテールに拘泥せず、その場面場面で気の向くまま星空を描いていたのではないか? 原作を詳細に検証すればするほど、こうした疑念は深まった。というのも、KYOJIN no HOSHI を特定するためのデータが、ことのほか少ないのだ。ひょっとしたら、両巨匠は故意にそうしていたのかもしれない。かりに、 KYOJIN no HOSHI が特定できちゃったとしたら、その星は世間一般に KYOJIN no HOSHI と呼ばれてしまい、その星本来の名前が消えちゃうかもしれない。その危険性を回避していたのだとしたら・・・。両巨匠ったら、深慮遠謀!

星を特定するにはいくつかのデータが必要だ。
A 方角。東西南北のどの方角の、どの高さを指さして KYOJIN no HOSHI といっているのか。それがわからんことには無数にある星のなかから特定するなんてとうてい無理な話だ。
B 季節。季節によって見える星座はずいぶんと違う。月日がわかれば、なおいい。
C 時刻。時間の経過とともに星は位置を変えちゃうのだから、その場面が何時頃なのかがわからないといけない。
以上のデータがそろえば、その場面で指している星を推定できる。そして、いくつかの場面から割り出されたそれぞれの KYOJIN no HOSHI 候補を突合のうえ、もっとも妥当性のある星が、我々の求める星、というわけだ。

画1「巨人の星」(講談社KCスペシャル)第1集、41ページ
星家(長屋)の窓。一徹、左手で夜空を指差す。「飛雄馬よ。見るがいい」その指差す先には一際明るく輝く星々が。一徹「あの星座がプロ野球最高の名門巨人軍だ」

画1は、「巨人の星」のなかで、初めて KYOJIN no HOSHI が登場する場面である。
A [ 方角 ] これだけを見てもどの方角を指さしているのかはわからない。しかし、この窓がどちらを向いているのかがわかれば、星の位置する方角がわかるんじゃないか? 
B [ 季節 ] また、この場面は長島茂雄の巨人軍入団発表があったその夜の場面である。昭和33年の春のことだ。作品の中でそういっている。
C [ 時刻 ] この場面は、川上哲治が、壁の穴を通す飛雄馬の投球を打ち返した直後の場面である。こっそり帰る川上の背中に夜のとばりがおりるのが描かれている。日没直後の時間帯と推定できる。

このように、数は少ないとはいえ、 KYOJIN no HOSHI を推定できる場面がないわけではない。あとは根気よく、ひとつずつ確かなものを積み重ねていけばよいのだ。
手始めに、星家の間取りを推定しよう。これが意外とばかにできない。 KYOJIN no HOSHI を特定する重要なポイントなのだから。


4)「新巨人の星」 昭和51年〜53年まで「週刊読売」に連載。現在、講談社より全6集が発売中。


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