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第3章 さて、KYOJIN no HOSHI はどの星?


第1節 昭和33年、春(東京都荒川区)


A [季節]

画12 「巨人の星」(講談社KCスペシャル)第1集、6ページ
漫画「巨人の星」、記念すべき連載第 1ページ目。1コマ目はスポーツ新聞が描かれている。「スポーツ毎日」 (9面)と「スポーツタイムズ」(多分 1面)に「六大学のホームラン王 長嶋茂雄選手 巨人入団決定 !!」、「長嶋ついに巨人軍に」の見出しが躍る。2コマ目は「昭和33年、春・・・」のキャプションと「○○ホテル」の外観。そして、「長嶋選手入団発表パーティ会場 主催巨人軍」の看板が。

画12は、「巨人の星」冒頭の場面である。このあと延々4年9カ月もの長きにわたる連載の、記念すべき第1ページ目である。「昭和33年の春」、「(東京)六大学のホームラン王、長島茂雄選手」の「入団発表パーティー会場」がオープニングだ。

後で詳しくふれるが、星一徹が初めて KYOJIN no HOSHI を指さすのがこの日なのである。
季節は、春。原作で明言しているのだから、これは疑いようもない。が、年月日も特定できればそれに越したことはない。

と、いうわけで、我々は「読売巨人軍・広報」に問い合わせてみた。「長島茂雄氏の入団発表の記者会見は、何月何日に行われたのですか」と。答えは「入団年の前年秋に行われています」だった。うーむ・・・、とすると記者会見は2回以上行われていて、「巨人の星」で描かれているのは2回目以降の記者会見ということになるのか。まあ、そういうこともあるかもしれない。なにせ、相手は超大物新人、当時はプロ野球よりも人気があったという「(東京)六大学野球のホームラン王」長島茂雄選手の入団発表なのだから。それに、通常新人の入団発表の場面では、球団オーナーか代表、監督が同席するのが普通だろうに、「巨人の星」で描かれている記者会見には、川上哲治「選手」(9)と巨人軍 OB の千葉氏が同席しているだけだ。この記者会見は、多分2回目なのだろう。

となると、2回目以降の記者会見の日時は特定しがたい。もう一度「読売巨人軍・広報」に問い合わせるのもちょっと気がひける。

では、1コマ目に描かれている新聞だな、次の手がかりは。

しかし、我々の調べた範囲では「スポーツ毎朝」も「スポーツタイムス」も昭和33年当時は存在しなかった(もちろん、現在も)。また、「スポーツ毎朝」で入団決定の記事の隣に掲載されている事件(「飯田信宏(26)は・・・同室の田淵栄治(18)を殺した」)に該当する事件も探し当てることができなかった。

んー、万策つきた。月日までは特定できないや。

 [季節に関する考察の結論]・・・原作の記述を尊重して、昭和33年の春。ただし、引退間近とはいえ、まだ選手である川上氏が同席している点を鑑み、キャンプイン直前、1月下旬と推定する。

B [方角]

画13及び画13-A(前出画1に同じ)「巨人の星」(講談社KCスペシャル)第1集、41ページ
星家(長屋)の窓。一徹、左手で夜空を指差す。「飛雄馬よ。見るがいい」その指差す先には一際明るく輝く星々が。一徹「あの星座がプロ野球最高の名門巨人軍だ」
星家間取り 3
画14(星家間取り・平面図)

画13は、「巨人の星」の中で初めて指し示される KYOJIN noHOSHIである。そして、これは前出長島選手入団発表(作品中)の夜のことである。

ここで第2章で検証した星家の間取りを今一度思い出してもらいたい(画14参照)。一徹・飛雄馬が夜空を見上げているこの窓に該当するものはひとつしかない。平面図 A の窓である。この窓は「東」向きだ。

KYOJIN no HOSHI は、1月下旬に東の空に見えているというわけだ。

そして、我々は画13-Aのコマに着目した(10)。この一徹の左手人差し指が指し示す角度がわかれば、 KYOJIN no HOSHI を特定することができるはずだ。基準は同じコマの窓枠だ。いくら古いといっても、地面に対してほぼ垂直とみていいだろう。この線を基準にすれば・・・。

だが、我々には3Dを処理する知識が不足していた。そこで我々は札幌市在住の小児科医に助けを求めた。なぜ小児科医かって? それは彼が我々の知人のなかで唯一数学を趣味とする人間だったから。しかし、仕事が忙しかったのか、彼は「空間図形と三角関数の知識があれば導き出せるよ。高校2年生レベルだね。」とヒントをくれただけだった。我々は十数年前の参考書を引っぱり出し、X軸・Y軸・Z軸、sin・cos・tanと格闘しながら、角度を求めた(11)

[方角に関する考察の結論]・・・一徹の人差し指は、上方に13〜15度の傾きで指されている。

C [時刻]

さて、 KYOJIN no HOSHI が初めて登場する場面だが、すでに何度も述べているように、長島茂雄選手の入団発表の日のことだ。その席で飛雄馬は長島選手に魔送球を投げつけ逃げ帰るのだが、その帰路を川上「選手」につけられている。その後、川上「選手」は野球バカ親子に感動しつつ、こっそり去るのだが、その背中に夜のとばりが描き込まれている。そして、その直後のコマが画13だ。

つまり、 KYOJIN no HOSHI の初お目見えの時刻は、日没直後ということになる。

[時刻に関する考察の結論]・・・東京都の1月31日の日没時刻は、17時10分頃。よって、画13は、概ね17時30分頃の出来事となる。

[昭和33年、春、東京都荒川区において指し示された KYOJIN no HOSHI についての推定]

A 季節 : 昭和33年1月下旬
B 方角 : 東の空、仰角13〜15度。
C 時刻 : 概ね午後5時30分頃。

星図 I 星図 II
星図 I 東京/日本(北緯36°、東経140°)昭和33年1月31日 17:30東の空、仰角0〜90° 星図 III 星図I の小犬座付近拡大図

星図 I をみていただきたい。これこそが、昭和33年1月31日午後5時30分に、東京の東の空にみえていた星空である(我々はこれをコンピュータ画面で再現した)。オリオン座、ふたご座など代表的な冬の星座が並ぶゴージャスな星空だ。

星図 III

そして、一徹が指していた仰角13〜15度は、概ね星図 II のあたりだ。いっかくじゅう座とこいぬ座の付近である。彼のいう「プロ野球最高の名門巨人軍」という星座は、いっかくじゅう座とこいぬ座をあわせたものなのだろうか。そういわれて星座の線を勝手に引いてみると、「ジャイアンツ」の「G」マークにみえないこともない(星図 III)。

そして、このなかでも「ひときわでっかく輝く明星」はこいぬ座の Procyon(プロキオン 0.36等)である。

このシーンで、一徹が指し示している星は Procyon であるとの推定が成り立つ。

推定1: KYOJIN no HOSHI = Procyon (プロキオン 0.36等)

星図 III 星図 II に「勝手な星座線」を引いた図

9) ちなみに川上哲治「選手」は昭和33年に現役を引退。助監督、ヘッドコーチを経て、昭和35年11月に三原監督の跡を継ぎ、巨人軍の監督に就任している。また、昭和33年に入団した長島茂雄「選手」は、同シーズン、本塁打・打点の二冠をとり、新人王に輝いている。
10) 画13-A の前コマは、「飛雄馬よ、見るがいい」とのセリフから、指し示す動作の途中である可能性が高いことから、検討対象から除外した。
11) この格闘の軌跡に興味のある御仁は巻末付録を参照願いたい。


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